赤ちゃんの離乳食を始める際、多くのパパ・ママが心配するのは「食物アレルギー」ではないでしょうか。
「アレルギーが怖いから、卵やピーナッツはなるべく遅く与えたほうがいいのでは?」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、近年の研究によって、その常識は180度覆されつつあります。今回は、最新の科学的根拠に基づいた「卵とピーナッツの正しい始め方」について解説します。
- これから離乳食を始めるパパ・ママ
- 食物アレルギーが心配で、卵やピーナッツの進め方に迷っている方
- アトピー性皮膚炎や湿疹がある赤ちゃんの保護者の方
1. 「避ける」から「食べる」へ:アレルギー予防の大転換
かつては、アレルギーの原因となる食品を妊娠中や授乳中、そして乳児期に「避ける(除去する)」ことが推奨されていました。
しかし、2000年代以降の研究で、除去することに予防効果はなく、むしろ開始を遅らせることがアレルギーのリスクを高める可能性があることがわかってきました。
現在では、世界中のガイドラインが「アレルゲンとなる食品の摂取を遅らせる必要はない」とし、むしろ 「早期に導入することでアレルギーの発症を予防できる」 という方向にシフトしています。
2. 【時期】いつから与えるのがベスト?
では、具体的にいつから与えればよいのでしょうか?
ピーナッツ:生後4〜11ヶ月の間
特に湿疹があるなどアレルギーのリスクが高い赤ちゃんを対象とした画期的な研究(LEAP研究)では、生後4〜11ヶ月の間にピーナッツ製品を食べ始めたグループは、除去し続けたグループに比べて、5歳時点でのピーナッツアレルギー発症率が 81%も減少 しました。
米国のガイドラインでは、リスクが高い乳児の場合、生後4〜6ヶ月という早い段階での導入を推奨しています。
卵:生後6ヶ月頃から
卵に関しても、生後4〜6ヶ月頃から加熱した卵を摂取することで、卵アレルギーのリスクが減少することが複数の研究で示されています。
特に日本で行われた研究(PETITスタディ)では、アトピー性皮膚炎のある赤ちゃんに対し、生後6ヶ月から加熱卵粉末をごく少量ずつ与えたところ、1歳時点での卵アレルギー発症率が 約8割も抑制 されました。
卵もピーナッツも、離乳食を開始する生後6ヶ月頃(早くても4ヶ月以降)から導入し、1歳まで先送りしないことが推奨されています。
3. 【方法】どのように、どれくらい与える?
早く与えるといっても、いきなり大量に与えたり、生の状態で与えたりしてはいけません。
卵の与え方
しっかり加熱する
生卵や半熟卵ではなく、まずは「固ゆで卵」から始めましょう。加熱することでアレルギー性が低下します。
ごく少量から
最初は耳かき1杯程度のごく少量から始め、問題がなければ少しずつ量を増やします。
ピーナッツの与え方
形状に注意(窒息防止)
ピーナッツやナッツ類を「丸ごと」与えるのは、5歳以下では窒息のリスクがあるため厳禁です。
パウダーやペーストを使う
スムースなバター状のものをお湯で溶いたり、パウダー状のものを果物や野菜のペーストに混ぜて与えます。日本ではピーナッツバターやナッツパウダーを活用するのが現実的です。
重要なのは「継続」
一度食べて終わりではありません。「継続的に」食べさせることが、体に「これは食べ物だよ(敵ではないよ)」と教えること(免疫寛容)につながります。週に数回など、定期的にメニューに取り入れましょう。
4. 【最重要】肌荒れ(湿疹)がある赤ちゃんの場合
ここが非常に重要なポイントです。「湿疹(アトピー性皮膚炎)」がある赤ちゃんは、食物アレルギーを発症するリスクが高いことがわかっています。
「二重抗原曝露仮説」という考え方があります。
- 皮膚から: 荒れた肌からアレルゲンが入ると、体は「敵だ!」と認識してアレルギーになる(経皮感作)。
- 口から: 口から食べて腸で吸収されると、体は「栄養だ」と認識してアレルギーになりにくくなる(経口免疫寛容)。
つまり、 「肌をツルツルに治してから(皮膚からの侵入を防ぎ)、口から食べる(腸で慣らす)」 ことが、アレルギー予防の鉄則です。
もし赤ちゃんに湿疹がある場合は、自己判断で離乳食を進める前に、医師に相談してしっかりと皮膚の治療(ステロイド外用薬など)を行い、肌が良い状態でアレルゲン食品を開始することが推奨されます。
よくある質問
アレルギーが怖いので、少しずつ様子を見ながらでも遅らせた方が安心ではありませんか?
最新の研究では、遅らせることでかえってアレルギーのリスクが高まることがわかっています。医師の指導が必要な場合を除き、適切な時期(生後6ヶ月頃)から少量ずつ開始することが推奨されます。
湿疹があるのですが、離乳食を始めても大丈夫ですか?
湿疹がある状態でアレルゲン食品を摂取し始めると、リスクが高まる可能性があります。まずは小児科や皮膚科で湿疹の治療を行い、肌の状態を良くしてから、医師と相談の上で進めることを強くおすすめします。
ピーナッツバターはどのようなものを選べばいいですか?
砂糖や塩分が含まれていない、ピーナッツ100%のペースト(無糖・無塩)がおすすめです。粒が残っているクランチタイプではなく、滑らかなスムースタイプを選び、さらにお湯などで伸ばして与えましょう。
まとめ
アレルギー予防は「怖がって避ける」ことから「正しく知って食べる」ことへと変わりました。
- 遅らせない: 卵やピーナッツは、離乳食開始時期(生後6ヶ月頃)から導入を検討しましょう。
- 安全に: 卵は加熱、ナッツはペースト/パウダーで。
- 肌をきれいに: 湿疹がある場合は、まず肌の治療を優先し、医師と相談しながら進めましょう。
赤ちゃんの健やかな成長のために、適切な時期に適切な方法で、新しい食材にチャレンジしていきましょう。
参考文献リスト
- Food allergy prevention: Where are we in 2023? (2023-02-28)
- Editorial Comment on “Feasibility and safety of introducing cashew nut spread in infant diets—a randomized trial” (2023-05-31)
- Introducing peanut early in life – Ready for the general population? (2023-02-15)
- Tolerance to cooked egg in infants with risk factors for egg allergy after early introduction of baked egg. (2025-02-28)
- Timing of Allergenic Food Introduction and Risk of Immunoglobulin E–Mediated Food Allergy (2023-03-26)
- Feasibility and Safety of the Early Introduction of Allergenic Foods in Asian Infants with Eczema (2024-05-22)